開発と環境保全

 沿岸域の開発と水環境

1.大阪湾の埋め立て開発と水質変化の推移

 大阪湾の底層水が貧酸素化するようになったのは1950年代後半から1970年代初頭である。陸からの排出の増大に伴って湾の富栄養化が大きく進行した。海域環境が最も悪化した時期は、リンの負荷量がピークとなった1974年である。成層期には底層水が貧酸素化して、表層では赤潮が頻発した。1976年には瀬戸内海で赤潮が299件も発生した。その後赤潮の発生件数は年々減少したが、リンの負荷量の変化に2〜3年の遅れで漸減する傾向が見られた。
 大阪湾の年次別埋立面積と貝類漁獲量の変化には、密接な関係が存在する。例えば、1968年は堺・泉北臨海工業用地の埋立ラッシュの末期に相当し、貝類の漁獲量が急激に減っている。浅海域を生息場とする貝類の激減は埋立土地造成や人工護岸等の造成によって生息場が喪失することに原因している。

大阪湾の埋立面積と貝類漁獲量の経時変化

引用:城久(1986):大阪湾における富栄養化の構造と富栄養化が漁業生産に及ぼす影響について,大阪府水産試験場研究報告,第7号,pp.174

2.ミチゲーション

 現行の環境アセスメントの持つ欠陥を打開するものとして、最近急速に注目されているのが「ミチゲーション」の概念である。MICHIGATIONの本来の意味は「緩和」であることから、「環境への影響を緩和する行為」と解釈され、最近では環境問題を解決する救世主の如く扱われているが、我国への適用に当たっては問題点が多い。ミチゲーションは、米国のブッシュ大統領が「開発の環境への影響をトータルとしてゼロとする"No-Net-Loss"構想」を環境政策として打ち出した際に注目を浴びた概念である。その定義は以下のとおりである。
(1)開発全体あるいはその一部を実施しないことによる回避行為:Avoidance
(2)行為の影響度を制限することによる影響の最小化行為:Minimization
(3)影響を受けた環境そのものを修復し、復旧する行為:Rectifying
(4)ある行為の全期間中にわたって保護およびメンテナンス作業により影響を軽減するか、除去する行為:Reducing and Eiminating
(5)代替し得る資源または環境を提供する環境影響の代償行為:Compensation
つまり、ある開発行為を実施するに当たって、それがもたらすであろう環境への影響をできるだけ軽減するとともに、失われるであろう環境と同等の質のものをより積極的に代替処置を講じて再生、修復あるいは復元しようとする政策と言ってもよい。

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