大阪大学大学院工学研究科 地球総合工学専攻 社会基盤工学コース 交通・地域計画学領域 お問い合わせ サイトマップ
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研究室の概略
最近のテーマ解説


土井 健司 教授 飯田 克弘 准教授 猪井 博登 助教
 

新田保次教授 NITTA YASUTSUGU
   
都市・交通のデザイン
 
  都市や交通のデザインとは、どのような行為や思考でしょうか。一般には、伝えたいメッセージを有し、それを印象付けるアイデアと伝えるための造形表現を備えた合目的的な行為を、デザインと呼びます。また、近年では、分野を横断した創造的な問題解決の方法が「デザイン思考」として注目を集めています。デザインの本質は合目的性と分野横断性にあるといって良いでしょう。
  人口減少および超高齢化に起因した諸問題が常態化、深刻化する中で、巨大災害リスクへの対応が急がれるわが国においては、都市・交通デザインの抜本的な方向転換が求められています。持続可能な縮退都市を前提としつつ、地域活力を育むための創造都市や国際競争力の高いメガリージョンの形成を進めていく必要があります。
  本研究室では、都市、メガリージョンおよび国土レベルでの広がりで、都市・交通に関わるヴィジョンやプランづくりおよび空間デザインに関わる研究を行います。

 

縮退都市・創造都市とモビリティ
 
  縮退都市戦略(コンパクトシティ)と創造都市戦略(クリエイティブシティ)とは表裏一体の関係にあります。両者の実現のためには人・モノ・カネ・情報・知識、そして時間という資源の結びつきが再構成されなければなりません。その鍵となるのがモビリティです。モビリティは人やモノの移動の自由度を指すとともに、様々な資源の利用能力を表わします。理想的な都市・交通をデザインする上で、モビリティ=資源の利用能力を高めるための「社会的ユーサビリティの追求」が重要となります。

 

社会的ユーザビリティの向上が鍵
 
  ユーザビリティとは、図に示すようにアクセシビリティを超えた高次の人間工学的領域です。使いうる現在の交通システムを、身体的、生理的に「使いやすい」レベルへ、さらに心理的に「使ってみたい」レベルへ引き上げてゆくためには、交通手段、インフラ、空間および制度にわたる統合的なデザインが必要とされます。
  都市の多様な交通手段や利用者が、安全かつ公平に交通空間を活用するためには、明確な優先順位の下に、デザイン思考により空間の階層化と交通速度の階層化を図り、社会的満足度としてのユーザビリティを高めるプロセスが求められます。
  本研究室では、道路、鉄道、空港・港湾施設、交通結節空間、公共施設を対象に、それらの社会的ユーザビリティを高めるための計画・設計・運用論に関わる研究を行います。
 

 

次世代の都市・交通
 
 社会的ユーザビリティの向上プロセスに基づき、以下の特徴を備えた次世代の都市・交通の実現が期待されます。
(1)トランスモーダリティ
・交通結節機能の高度化によるシームレスなモード間連携の実現と交流・回遊性の創出
(2)ニーズ即応型のモビリティ
・ITSの活用や空間・制度の柔軟な運用による利用者ニーズ、状況に応じた交通サービスの提供
(3)コモビリティ
・コミュニティの連帯感と個人のモビリティを両立させる共有型の交通サービスの提供
  本研究室では、将来の社会ニーズを見通しながら、こうした新たなコンセプトづくりと実装化を試みます。

 

 
   
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飯田 克弘准教授 IIDA KATSUHIRO

   

交通調査の重要性

 
  渋滞緩和や走行安全性の向上などの走行環境改善は社会が抱える大きな課題です。また近年では、高齢者ドライバー増加に代表されるドライバーの多様化が課題解決を一層難しくしています。解決に向けては、道路交通システムを構成する人間 - 自動車 - 道路の相互関係を解明し、運転者の視点から道路設計を評価することが必要です。そのため、交通状況の実態調査の重要性はこれまで以上に高くなっています。

 

様々な交通調査手法と室内実験の意義

   
 現時点で、代表的な調査方法としては、交通状況の観測、道路上の走行実験、実験室の仮想走行実験などが挙げられます。
 交通状況の観測は、道路上に車両感知器またはビデオカメラを設置し、車両の走行速度、交通量などの交通状況を観測する方法です。しかし、この方法によって得られるデータでは、運転者個々人の運転挙動や心理状況までは捉えられません。
 道路上の走行実験(実走実験)は、各種計器を搭載した試験車を用いて被験者に走行させ、走行速度、加(減)速度などの車両挙動、ハンドルやアクセルなどの運転操作、および脈拍、心拍などの生理反応に関するデータを収集します。この方法は、運転者個々人の運転挙動という連続的・微視的な視点に立ち、道路構造上の問題点の抽出などが行えるという利点があります。しかし、実験の安全性確保などのため、多くの社会的制約が伴います。
  さらに、これらの調査方法では、天候や周辺走行車両など、実験結果に影響を及ぼす諸条件を統一することができません。また、当然現存しない走行環境で調査を行うことはできません。
  これに対し、実験室の仮想走行実験(室内実験)は、様々な条件を伴う現場での調査・実験の問題を解決する方法として位置づけられます。最近ではコンピュータ・グラフィックス(Computer Graphics: CG)の技術的発展に伴って、より現実に近い走行中の周辺道路状況が再現できるドライビング・シミュレータが開発されており、これを用いた室内実験で運転者の運転挙動を調査することが可能になってきています。

 

当研究室の取組み


 当研究室では、1998年から、ワークステーション、ビデオプロジェクター、多画面スクリーン、模擬運転台、および3次元音響装置から構成されるドライビング・シミュレータを開発してきています。多画面スクリーンは、正面120inch、左右150inchのスクリーンで構成されており、それぞれに対応したプロジェクターで映像が投影されます。また、サイドミラーおよびバックミラーの役割を果たす3台の液晶ディスプレイには後方風景の映像が表示されます。これによって、正面から被験者の頭の位置までの距離が2mの場合、周辺視を含めた200°以上の広範囲の視野角を確保できるとともに、サイドミラーによる後方の交通状況の確認が可能となっています。また走行中の臨場感を向上させるため、車両の速度と地点情報(路面状況等)などから、場面に対応した走行音(ロードノイズ、エンジン音)が3次元音響装置で別途生成され、模擬運転台の左右・アクセルペダル横・運転台後部の4箇所に設置されたスピーカーを通じて再生されます。

 

適用事例

 

 このドライビング・シミュレータは、運動模擬装置は搭載していないため、急制動や急旋回を伴う交通場面には適用されていませんが、トンネル坑口の評価 1) 、JCTにおける案内標識の評価 2) 、サグ部の道路構造改善検討 3) 4) 、視界不良時における情報提供の支援効果評価 5) 6) 、合流部付加車線延伸効果の検討 7) 8) など多くの適用実績を有しています。
  また適用に際しては、現地での走行実験を併せて実施し、ドライビング・シミュレータで取得されるデータの現況再現性が確認されていることも特徴の一つです。
  さらに、あるドライバーの走行記録を次のドライバーの前方車両として提示するという技術により、1台のドライビング・シミュレータで追従走行実験を行うことも可能となっています。当研究室では、この追従走行結果の現況再現性を確認 9) すると同時に、被験者の走行結果の積み上げにより、渋滞現象を再現することにも成功しています 10)



1) 飯田克弘・森 康男・金錘旻・池田武司・三木隆史:
ドライビングシミュレータを用いた室内実験システムによる運転者行動分析-実験データの再現性検討と高速道路トンネル坑口の評価 -、土木計画学研究・論文集、No.16、 pp.93-100、1999.
2)

飯田克弘・窪田稔:
利用者属性の影響を考慮した複雑な
JCTにおける案内標識の評価、土木計画学研究・論文集、Vol.18 No.5、 pp.825-832, 2001.

3)

飯田克弘・池田武司・河井健・森康男・山岸将人:
プロトコル法を用いた運転者挙動分析結果に基づくサグ部の道路構造改善方針の検討、土木計画学研究・論文集、
Vol.18 No.5、pp.919-926, 2001.

4) 渡辺亨・山岸将人・河井健・飯田克弘:
サグ部の道路構造改善案に対する運転挙動分析に基づいた評価、高速道路と自動車、Vol.46, No.10、pp.27-34、 2003.
5)

飯田克弘・池田武司・石山裕一・秋田周作:
視界不良時における走行挙動特性と情報提供の支援効果把握、
交通工学、Vol.38、No.2、pp.59-69、2003.

6)

飯田克弘・秋田周作:
ナビゲーション・ディスプレイを用いた霧発生時における情報提供方法の検討、土木計画学研究・論文集、
Vol.21、No.4、pp. 907-914、2004.

7)

河井健・飯田克弘・安時亨・大口敬:
ドライビング・シミュレータを用いた合流部走行実験の現況再現性、第23回交通工学研究発表会論文報告集、pp.81-84、2003.

8)

飯田克弘・隅本雄一・巽義知・安時亨:
VR技術の適用による合流部付加車線延伸効果の検討,土木計画学研究・論文集 , Vol.22, No.4, pp.925-932, 2005.

9)

大口敬・飯田克弘:
高速道路サグにおける追従挙動特性解析におけるドライビング・シミュレータ技術の適用性、
交通工学、Vol.38、No.4、pp.41-50、2003.

10)

飯田克弘・藤原一雅・河井健・大口敬:
室内実験による渋滞現象の再現性検討と渋滞発生過程における交通流分析、第22回交通工学研究発表会論文報告集、pp.13-16、2002.



写真 ドライビングシミュレータ

写真 ドライビングシミュレータ
   
 

   
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猪井博登助教 INOI HIROTO

   

福祉サイドからの持続可能な交通システムづくりに関する研究

 

 福祉とは何でしょうか?「福」も「祉」も幸せを意味します。福祉の向上=幸せを実現するために、自分ひとりでできることは限られます。そのため、人々は助け合い、お互いの幸福を向上しています。これが福祉であると思います。
  しかし、すべての人の幸せへの要望を聞いていたとすると、いくらお金があっても足りません。そのため、本当に困っている人を見分けなければなりません。
  このときに、「困っていますか」と質問したとするとします。長い間困難な状況にあり、その改善が期待できない人は、実現もしないことを望み続けるのはあまりに苦しいのでいつの間にか自分が困っていることすら考えなくなってしまいます。また、「困っていますか?」と質問した場合、本当は困っていない人が強い声で不満を言った場合、本当に困っている人の意見が見過ごされてしまいます。
  これまでの交通の整備においては、利用者の利便を向上するように、意見を伺い、これを満たしていくことが重要でした。しかし、福祉の交通を考えるには、上のような問題から、客観的な状態を表現することが求められます。そこで、本研究室では、移動の制約を客観的に表現する方法を研究しています。さらに、回答を行いやすいように日常生活における行動を達成できるかを質問することにより移動の制約を表現することとしました。
  その結果、「スロープを登ることができるか」「席の移り変わりができるか」「座位の保持 /お辞儀ができるか」「「外出時にどのような補助具を使うか」の4つの質問を行うことにより、バスが利用できるのか、写真のように介助やドアツードアサービスなどの高度なサービスが提供される移送サービス(STS)でないと外出できないのかを判断することができるようになりました。

 

写真 移送サービス(茨木市アクティブネットワーク)

 

写真 移送サービス(茨木市アクティブネットワーク)
 

 

 福祉サイドから持続的な交通は、「住民のため」の交通であることは当然なのですが、先に述べましたように、福祉の向上=幸せを実現するために、自分ひとりでできることは限られ、人々が助け合い、お互いの幸福を向上していかなければなりません。そのため、利用するだけではなく、それぞれができる力を出し合いお互いの幸福の向上を移動の障害を取り除き実現していかなければなりません。つまり、「住民による」交通でなければならないのです。写真は、吹田市千里丘地区のコミュニティバスの住民参加によるワークショップの風景です。本研究室では、住民による交通がどのように在るべきかについても研究を行っております。

 

 

写真 コミュニティバスのワークショップ(吹田市千里丘)

 

写真 コミュニティバスのワークショップ(吹田市千里丘)
 

   
 
   
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